このページの要点
- 重要な用途を列挙し、人が確認しなければならないと義務にする。対外的な文書は法的な効果や重要な取引に関わるものに絞る。
- 不具合の定義から「生成内容に誤りが含まれること自体」を除き、免責の循環を断つ。
- 生成物を顧客に帰属させるなら、提供者の従前の要素を除き、他の顧客への類似の出力を了承させる。
- 「学習に使わない」は提供者の約束と外部のAI事業者との契約を分けて書き、別紙で開示する。
結論:法人向けのAI機能は、「人が確認する義務」「誤りそのものの扱い」「学習に使わない約束」を契約で具体化する
生成AIの機能を組み込んだ法人向けのSaaSでは、AIの出力に誤りが含まれることを前提に、誰がどこまで確認し、誤りによる損害を誰が負うのかを決めておく必要があります。消費者向けのアプリの規約なら「正確性を保証しない」と書いておくのが出発点ですが、法人の顧客との契約では、顧客の法務担当者がその一文の効き方を細かく確かめてきます。アトラス行政書士法人がレビューした法人向けのAIサービスの契約では、免責の条項はあるのに、その発動の条件が曖昧で機能しない、という問題が見つかりました。
このページでは、法人の顧客との契約で決めるAI機能の条件に絞って説明します。AIサービスの利用規約の一般論(入力データ・生成物・外部のAPIの責任)は、姉妹サイトのAIサービス・APIの利用規約のページで扱っています。顧客データを外部のAIに送ることの個人情報保護法上の整理は委託先と個人情報のページをご覧ください。
「必要に応じて確認する」と書くと、免責が骨抜きになる
社内資料を読み込んで回答するAIサービスの試行版の契約では、依頼者の原本に、AIの生成内容には誤りがあり得ること、正確性を保証しないこと、重要な用途に使うときは利用者が人の目で確認すること、AIだけで正式な判断を代替しないことが書かれていました。考え方は適切で、根拠となる箇所を表示する機能が検証の手段を支えている、と評価しました。
弱点は、確認の条項に「必要に応じて」とあったことです。こう書くと、確認するかどうかが顧客の裁量になり、損害賠償の条項にある「顧客が確認せずに利用した場合は責任を負わない」という免責を働かせるには、提供者の側が「この場面は確認が必要だった」と立証しなければなりません。AIの生成内容の誤りによる損害の分担について、先例となる裁判例の蓄積はまだ乏しく、契約の文言が結論を左右する度合いが高い分野です。
事務所の改訂例:人による確認の条項
確認の要否
理由確認の要否を顧客の裁量にしないことで、免責の発動の条件が明確になります。
対外的な文書の範囲
理由文書一般にすると日常の連絡メールまで対象になり、顧客の法務に削除を求められ、裁判所も限定して解釈します。免責を働かせるには、顧客が「確かに確認すべきだった」と認めざるを得ない範囲に絞る必要があります。
条文例生成内容の確認(試行版の契約の修正文案を一般化)
- 甲は、本サービスにより生成された内容に誤り、不正確な情報又は不完全な情報が含まれ得ることを確認します。
- 甲は、生成された内容を次の各号の用途に用いるときは、利用者をして、その内容を確認させなければなりません。(1)重要な経営上又は業務上の判断(2)第三者に対する文書のうち、法的な効果を生じるもの又は重要な取引に関するもの(3)契約の締結、変更又は解除(4)法令に基づく申請、届出又は報告(5)生命、身体、財産又は安全に関わる事項(6)法律、税務、会計、医療その他専門家の関与が通常求められる事項
- 本サービスは、専門的な助言を提供するものではありません。
号の立て方は、顧客の業種によって変わります。ここで大切なのは、列挙して義務にすることと、範囲を合理的に絞ることです。
AIの誤りそのものは「不具合」か:免責の循環を断つ
同じ契約の損害賠償の条項は、「本サービスの不具合又は乙の義務違反に起因する場合を除き、生成内容の利用による損害について責任を負わない」という形でした。ここで、AIが誤った回答をしたこと自体が「不具合」に当たると主張されると、免責の例外に当たって責任を負うことになり、免責が意味を失います。修正文案では「本サービスの不具合(AIによる生成内容に誤りが含まれること自体を除く。)」と括弧書きを加え、誤りそのものは不具合ではないと定めて、循環を断ちました。
AIの出力の非保証の書き方(事務所の書類から)
誤りは不具合ではない
社内資料を読み込むAIサービスの試行版
- 不具合の定義から「生成内容に誤りが含まれること自体」を除く
- 重要な用途の確認を義務にする
性質上の誤作動
音声応答のクラウド
- 修正版で「AI技術に基づくものであり、その性質上、誤認識、誤作動又は期待と異なる動作が生じ得る」を新設
- 不具合の修正の義務は負わない
専門判断は顧客
生成AIの業務支援
- 出力の正確性・完全性・有用性・目的への適合性を保証しない
- 税務などの専門的な判断は顧客の責任
- 出力による損害は故意・重過失を除き負わない
機械的な参考情報
事業者専用の管理クラウド
- 粗利や資金繰りの予測などの表示は、入力した情報から機械的に算出する参考情報
- 請求漏れや資金不足の防止は保証しない
公平性・説明可能性
採用支援のクラウド
- 生成物の正確性に加え、公平性・非差別性・説明可能性も保証しない
- 生成物に起因する候補者との紛争は契約者が解決する
サービスが他の専門的な業務と隣り合う場合は、何の代わりにならないかを書いておくことも、AIの出力の扱いの一部です。事業者専用の管理クラウドでは、会計システム・税務申告システム・法務の支援・労務の管理・金融商品・投資の助言・経営の判断の代替ではないと明記しました。施設向けの業務支援システムでは、医療行為や診断を行わないこと、医療機器としての承認・認証・届出を前提としないこと、最終的な判断は利用者が責任を負い、誤判定・通信の障害・データの未同期でも同じであることを書いています。議事録のクラウドでも、AIによる認識の結果の正確性・網羅性を保証せず、法律・財務・医療などの専門的な判断の代わりではない、としています。
数値を出す業務用のSaaSや、採用・評価に使うSaaSでは、「何を保証しないか」の中身がサービスごとに違います。採用支援のクラウドのように、出力が第三者(候補者)の扱いに影響するサービスでは、公平性や説明可能性まで非保証の対象に入れ、第三者との紛争の解決を顧客に負わせる条項を置いています。
社内資料を検索して答えるAI:権限のない資料が表示されるリスク
顧客の社内資料を取り込み、それに基づいて回答する仕組み(RAG型)のサービスでは、最も大きなリスクは、権限のない利用者に他の部署の資料に基づく回答が表示されることです。原本には「権限のある資料のみをAIの処理の対象とする措置を講じる」という条項があり、このリスクを正面から扱っている点を高く評価しました。
ただ、この文言は顧客の法務からは「表示されないことの保証」と読まれます。顧客の外部ストレージの側で権限を変更しても、それがインデックスに反映されるまでには時間差があり、その間に表示が起きれば債務不履行を主張されます。修正文案では、措置は「外部サービスから取得した権限情報に基づき」講じるものとし、反映に時間差が生じ得ること、外部の側の権限情報が正確かどうかは顧客の管理に属することを、顧客が了承する形にしました。
社内資料は公衆に提供・提示された著作物ではないので、軽微な利用を認める規定(著作権法47条の5第1項)は使えず、資料の複製や根拠箇所の表示を支えるのは、主に顧客から提供者への契約上の許諾です。サービスの提供者が管理・支配する機器で行われる複製について、提供者を複製の主体と評価し得るとした判例(最判平成23年1月20日。テレビ番組の録画・転送サービスの事案)も、許諾を明記しておく実益の理由として報告書に挙げました(顧客データのページ)。顧客の社内資料に、購入した調査レポートや他社の提案書のような第三者の著作物が含まれていれば、生成物にその表現が再現される可能性があるので、生成物が第三者の著作物と同一・類似になり得ること、対外的に使うときの権利の確認は顧客の責任であることも加えました。
生成物の帰属と、提供者による利用
生成物(AIが出力した文章や資料)の権利をどう扱うかは、事務所の書類でも書き方が分かれます。
生成物の帰属と提供者の利用(事務所の書類から)
| サービス | 帰属 | 提供者の利用・留保 |
|---|---|---|
| 社内資料を読み込むAIサービスの試行版 | 権利が発生すれば顧客 | 提供者のテンプレートなど従前から持つ要素は除く。他の顧客に同一・類似の出力が生じ得ることを了承し権利を主張しない。著作物性は保証しない |
| スクール向けの顧客管理クラウド(第2版) | 顧客 | 保証しない。顧客が確認する。外部の生成AIの学習に使わせない |
| 採用支援のクラウド | 契約者 | 当社は改善・AIモデルの性能向上・新機能の開発のために無償・非独占で利用できる |
| 法人向けの業務支援クラウドの約款 | 契約者 | 当社は提供・運用・保守・改善の範囲で非独占・無償で利用できる |
| 生成AIの業務支援(研修と導入支援) | 教材・テンプレート・プロンプトを含む設定情報は提供者 | 顧客は自社の業務のための商用利用は可。第三者への提供・販売・公開と、成果物を基にした同種のサービスは不可 |
他の顧客に同一・類似の出力が生じ得ることの了承は、法人向けのAIサービスで特に必要です。同じモデルとテンプレートを使う以上、似た出力が別の顧客にも出ることは避けられず、顧客が生成物に独占的な権利を主張すれば、他の顧客との間で争いになり得るからです。利用者が法人に限られない投稿を生成するクラウドでは、生成した投稿文の著作権は利用者に帰属させつつ、提供者に提供・運営・品質の向上・研究開発・マーケティングの目的での無償・非独占の利用(翻案・複製・公開を含む)を許諾させ、著作者人格権を行使しないこと、生成した内容が第三者の権利を侵害しないことを利用者が保証することを定めています。法人向けの約款では提供者の利用を提供・運用・保守・改善の範囲に限っており、提供者がどの目的まで生成物を使うかは、利用者の層に合わせて選びます。生成AIの業務支援のように、提供者が作ったプロンプトやテンプレートそのものが商品価値を持つサービスでは、生成物ではなく「成果物」として提供者に帰属させ、顧客の利用の範囲を自社の業務に限る、という書き方になります。
「学習に使わない」という約束の書き方
法人の顧客がAI機能の付いたSaaSを導入するとき、最初に確認されるのが、入力したデータが学習に使われるかどうかです。事務所の書類では、次のような書き方があります。
- 規約に明記する。議事録のクラウドでは、利用者のコンテンツについて当社が受ける利用許諾の範囲を提供・運営・改良に必要な範囲に限ったうえで、「AIモデルの学習や第三者提供等の目的で使用しない」と規約に書きました。
- 外部のAI事業者にも許諾しない。個人向けの管理クラウドでは、利用者のデータを生成AIの学習・基盤モデルの改善・広告配信に使わず、外部のAI事業者にもその利用を許諾しない、とプライバシーポリシーに書いています。
- 双方向にする。事業者専用の管理クラウドでは、提供者が事前の同意なく顧客データを学習に使わないと約束する一方、顧客がサービスの画面・仕様・出力を学習や模倣に使うことを禁止しました。
- 使う場合は対象と目的を特定した承諾。試行版の契約では、内容を含まない利用状況のデータは承諾なく使えるが、顧客データ本文を提供者や第三者のAIモデルの学習(追加学習を含む)に使うには、対象のデータと目的を特定した書面の承諾が要り、承諾があっても個人データは委託の範囲を超えて扱わない、としました。
- 生体情報は変換して保持しない。施設向けの業務支援システムでは、精度の向上のために個人を特定できない形に加工したデータを分析・学習に使う一方、本人確認に使う生体情報は識別できない形に変換し、生体情報そのものは保持・再利用しない、と書いています。
「学習に使わない」と書く場合は、それが提供者自身の約束なのか、外部のAI事業者との契約で確保していることなのかを区別しておきます。外部のAI事業者の商用の規約で学習に使わないことが定められていても、提供者がそれを確認して別紙に書いておかなければ、顧客には伝わりません。試行版の契約の別紙「委託先等一覧」に「学習に使わないことを契約上確保しているか」の欄を設けたのは、このためです。
顧客が自分のAPIキーを使う場合、外部AIの仕様変更、利用ポリシー
スクール向けのクラウドの第2版では、顧客が生成AIの事業者や認証情報(APIキー)を自分のものに変更できる、という機能が入りました。顧客が自分のAPIキーを持ち込む場合(BYOキー)、AI事業者は提供者の再委託先ではなく、顧客が直接データを提供する相手になります。修正・加筆版では、責任の分担を4つの号で書きました。
条文例顧客の指定する生成AI事業者(スクール向けのクラウドの修正・加筆版を一般化)
- 甲が自らの認証情報を用いて指定する生成AI事業者(以下「甲指定事業者」といいます。)は、乙の再委託先ではありません。甲指定事業者への送信は、甲の指示に基づき乙が行うものとし、甲指定事業者との契約、認証情報の管理、利用料の支払及び利用条件の遵守は、甲が行います。
- 甲指定事業者による情報の取扱い(外国にある第三者への提供に係る措置を含みます。)は甲の責任とし、再委託先に関する本契約の定めは適用しません。
- 学習に使わない旨の乙の約束は、甲指定事業者には及びません。乙は、甲指定事業者による処理の内容、正確性及び可用性について責任を負いません。
- 前三項にかかわらず、甲指定事業者に送信するまでの区間における情報の安全管理は、乙が責任を負います。
1項がないと、甲指定事業者への送信が別紙にない再委託として本文の違反になります。4項の限定があることで、免責が「乙は何も責任を負わない」と読まれるのを防ぎ、免責の合理性を支えます。
- 外部のAIの仕様変更。採用支援のクラウドでは、外部の生成AIサービスの仕様の変更や応答の変動によって生成物が変わり得ることを明記し、外部のAIの利用条件が適用される場合があることも加えました。投稿を生成するクラウドでは、外部のAPIの仕様変更・提供終了をサービスの変更・終了の事由にしています。
- AI事業者の利用ポリシー。試行版の契約では、顧客と利用者が、提供者が使うAIサービスの利用ポリシー(禁止される用途)に従うことを顧客の義務にしました。顧客の技術資料が外国のAIに送られる構成なので、外国為替及び外国貿易法の規制の対象となる技術資料を登録しないことも、顧客の義務にしています。
- 外部AIの規約への同意。生成AIの業務支援では、外部のAIサービスを使うときは、顧客がその提供者の規約に別途同意する、としました。
- 録音の同意。議事録のクラウドでは、対話の相手の同意を得ずに録音データや会話の内容を取得・記録・アップロードすることを禁止し、採用支援のクラウドでは、面接の録音の実施の主体は契約者で、事前の同意の取得と適法性も契約者の責任としました。
ヒヤリングの問いと理由AI機能の条を作る前に
顧客は、AIの出力を何に使いますか。
対外的な文書、契約、申請、専門的な判断に使うなら、確認の義務の対象として列挙します。
AIの誤りを「不具合」として扱いますか。
扱わないなら、不具合の定義から生成内容の誤りそのものを除きます。
顧客の資料や入力を、学習に使いますか。外部のAI事業者はどうですか。
提供者の約束と外部の事業者との契約で確保していることを分けて書き、別紙で開示します。
顧客が自分のAPIキーを使えますか。
使えるなら、外部の事業者が再委託先でないこと、送信までの区間の責任を書きます。
生成物やテンプレートは、誰に帰属させますか。
顧客に帰属させるなら提供者の従前の要素を除き、類似の出力の了承を取ります。
起きがちなこと
AI機能の条項で起きがちなこと
- 重要な用途での確認を「必要に応じて」と書き、免責が働く場面を提供者が立証しなければならない。
- 免責の例外に「不具合」を置き、AIの誤りそのものが不具合だと主張されて免責が空になる。
- 社内資料の検索で「権限のある資料だけを処理する」と結果を約束し、権限の反映の時間差による表示で責任を問われる。
- 生成物を顧客に帰属させながら、提供者のテンプレートや、他の顧客への類似の出力の扱いを書いていない。
- 「学習に使わない」と書いたが、外部のAI事業者との契約で確保しているかを確認していない。
- 顧客の指定するAI事業者への送信が、別紙にない再委託として自社の条文に違反する。
AI機能を使う利用者のアカウントの管理や禁止事項は、利用者アカウントとセキュリティのページで扱います。
よくあるご質問
AIの出力の誤りについて免責を受けるには、顧客に何を義務付ければよいですか?
重要な用途を列挙し、その用途に使うときは人が確認しなければならない、と義務にします。「必要に応じて確認する」では確認するかどうかが顧客の裁量になり、免責を働かせるのに提供者の側の立証が要ります。対外的な文書は、法的な効果を生じるものや重要な取引に関するものに絞るのが現実的です。
AIが誤った回答をしたことは、サービスの「不具合」になりますか?
契約で決めておかないと、不具合だと主張される余地があります。免責の例外に「不具合」を置いている場合は、「AIによる生成内容に誤りが含まれること自体を除く」と括弧書きを加え、誤りそのものは不具合に当たらないと定めておきます。
生成物の権利を顧客に帰属させても、提供者は困りませんか?
提供者のテンプレートや定型の表現など、従前から持つ要素を帰属の対象から除き、他の顧客に同一・類似の出力が生じ得ることを顧客に了承してもらえば、両立できます。改善のために提供者が利用したい場合は、その範囲の利用許諾も置きます。
「入力データを学習に使わない」は、どう書けばよいですか?
提供者自身の約束として規約に書くことに加え、外部のAI事業者との契約で学習に使わないことを確保しているかを確認し、別紙などで開示します。学習に使う場合は、対象のデータと目的を特定した書面の承諾を得て、承諾があっても個人データは委託の範囲を超えて扱わない、と定めます。
顧客が自分のAPIキーで外部の生成AIを使う場合、責任はどうなりますか?
顧客が指定するAI事業者は提供者の再委託先ではなく、その事業者との契約や利用条件、外国への提供の措置は顧客の責任になります。提供者の「学習に使わない」約束も及ばないと書いておきます。ただし、その事業者に送信するまでの区間の安全管理は、提供者が責任を負うと明記しておくと、免責の合理性が保たれます。
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