このページの要点
- 取次型か再販型かで、規約の適用・アカウントの管理者・データの委託の連鎖・サポートの窓口が変わる。
- 再販型では、規約の主要な条件を代理店とお客様の契約に同等以上で入れる義務を代理店に負わせる。
- 代理店との契約が終わったときのアカウントを、終了・直接契約への切替え・別の代理店への引継ぎのどれにするか決める。
- 開発会社と組むなら、協業が終わった後の提供の継続とソースコード等の開示を決める。
結論:販売チャネルを入れると、SaaSでは「契約の相手」「アカウントの持ち主」「データの預け先」が変わる
SaaSを販売代理店や提携先を通じて広げるとき、手数料の率や支払の時期に目が向きがちです。しかし、SaaSの場合は、それ以上に、顧客が誰と契約し、誰がアカウントの管理者になり、顧客のデータを誰が預かるのかが、販売の形によって変わります。ここを決めないまま代理店に販売を任せると、規約の禁止事項や責任の上限が顧客に及ばない、代理店との契約が終わったときに顧客のアカウントの扱いが決まらない、といった問題が起きます。
このページでは、販売代理店・再販・紹介・協業を通じてSaaSを提供するときの、SaaSに固有の論点(アカウントの帰属、規約の流し込み、サポートの窓口、データの扱い、提供の主体が変わるときの継続)に絞って説明します。代理店契約の型の見分け方や手数料の決め方そのものは、姉妹サイトの代理店・フランチャイズの契約書ガイドで扱っています。
取次型と再販型で、SaaSでは何が変わるか
代理店がお客様を紹介して、お客様が提供者と直接契約する形を取次型(媒介)、代理店が自分の名前でお客様と契約し、提供者からサービスの提供を受けて再び提供する形を再販型と呼ぶことにします。SaaSでは、この違いが、次のような点に表れます。
取次型と再販型で変わるSaaSの論点
| 論点 | 取次型(お客様は提供者と契約) | 再販型(お客様は代理店と契約) |
|---|---|---|
| 利用規約 | 提供者の規約がお客様に直接適用される | 提供者の規約はお客様を直接拘束しない。代理店とお客様の契約に流し込む必要がある |
| アカウントの管理者 | お客様(又はお客様が指名した者) | 代理店が管理者になるのか、お客様が管理者になるのかを決める |
| お客様のデータ | お客様から提供者への委託 | お客様から代理店への委託、代理店から提供者への再委託という連鎖になり得る |
| 料金の請求 | 提供者がお客様に請求 | 代理店がお客様に請求し、提供者の取り分を代理店が支払う |
| サポートと障害の連絡 | 提供者が窓口 | 一次の窓口は代理店。提供者への取次ぎの方法を決める |
| 責任の上限 | 提供者とお客様の契約の上限 | 代理店とお客様の契約の上限と、提供者と代理店の契約の上限が別々に働く |
法人向けの音声応答のクラウドの販売代理店契約では、取次型として作った後、依頼者の方針で再販型に組み替えました。再販型にすると、お客様は提供者の契約の当事者ではなくなります。そのため、提供者の規約をお客様に守らせる仕組み、お客様のデータの扱い、提供者の商標を代理店が使う許諾など、取次型では要らなかった事項を、代理店との契約で新たに決める必要が出てきます。
お客様のデータの連鎖も、再販型で考え方が変わる点です。お客様が代理店と契約し、代理店が提供者のSaaSを使ってサービスを提供するなら、お客様の個人データは、お客様から代理店への委託(個人情報保護法27条5項1号)、代理店から提供者への再委託という形で流れることになり得ます。お客様は代理店を監督し(同法25条)、代理店は提供者を監督する立場に立ちます。提供者がお客様と直接の契約関係にないまま、お客様のデータを預かる構造なので、提供者の側の委託先としての定め(漏えいの通知、返却・消去、再委託先の一覧)を、代理店を通じてお客様に示せるようにしておく必要があります(委託先と個人情報のページ)。
規約の流し込み:再販先のお客様を、提供者の規約は直接縛らない
契約の効力は当事者の間にしか及びません。スクール向けの顧客管理クラウドで、顧客との契約の責任の上限が生徒本人からの請求には働かないと整理したのと同じく(責任制限のページ)、再販型では、提供者の規約の禁止事項・データの扱い・責任の上限は、代理店と契約したお客様を直接は縛りません。無償PoCの覚書でも、契約の当事者でない参加者を主語にした条項は参加者を拘束しないので、当事者の義務として書き直しました(PoC・トライアルのページ)。
そこで、提供者と代理店の契約に、代理店がお客様との契約に一定の条件を入れる義務を置きます。
条文例再販先との契約の条件(再販型の販売代理店契約の例)
- 乙は、顧客との間で本サービスの利用に関する契約を締結するときは、甲が定める利用規約のうち別紙に掲げる事項(禁止事項、データの取扱い、利用の停止、甲の免責及び責任の限度を含みます。)と同等以上の条件を、当該契約の内容としなければなりません。
- 乙は、顧客が前項の条件に違反したときは、甲の求めに応じて、顧客に対する是正の要求、利用の停止その他必要な措置をとります。甲は、顧客の違反が本サービスの運営に重大な支障を及ぼすおそれがあるときは、乙に通知したうえで、当該顧客の利用を停止することができます。
- 乙は、顧客の利用によって甲が第三者から請求を受けたときは、甲の責めに帰すべき事由がある場合を除き、その解決に協力し、甲に生じた損害を補償します。
どの条項を流し込むかは、提供者がお客様に対して直接守らせたい事項と、提供者が負う責任の範囲から逆算します。
反対に、取次型では、お客様は提供者の規約に同意して提供者と契約するので、流し込みの問題は生じません。その代わり、代理店が提供者の名前で契約を結んだり、値引きを約束したりしないことを書いておきます。採用支援のクラウドの営業代理・紹介の契約では、代理店の業務を見込み客の紹介・承認された範囲の説明・アポイントの獲得に限り、契約の締結・見積りの提示・値引き・返金の交渉・提供者の名義での意思表示・「正規代理店」と名乗ることを禁止しました。投稿を生成するクラウドのアフィリエイト型の代理店契約でも、代理店は提供者の代理人として契約を締結する権限を一切持たない、と定めています。
代理店の説明の内容も、規約と食い違わないようにしておきます。採用支援のクラウドの営業代理の契約では、営業資料は提供者が事前に承認した範囲でだけ使い、代理店が独自に作った資料は使えないこと、「必ず」「100%」のような断定の表現や成果の保証を禁止することを定めました。SaaSでは、提供者がSLAを約束しない設計をとっているのに、代理店が「止まらない」「必ず効果が出る」と説明すれば、お客様はその説明を前提に契約し、後で提供者の規約との食い違いが争いになります。投稿を生成するクラウドの代理店契約では、代理店が独自に作る広告素材は提供者の事前の承認制にし、解除の後は全媒体からリンクを削除し、商標と広告素材の使用を止める、としています。再販型では、提供者のサービス名やロゴを代理店がどの範囲で使えるのか(自社のサービス名で売るのか、提供者のサービス名を表示するのか)も、商標の使用の許諾として決めておく事項です。
音声応答のクラウドの販売代理店契約では、訪問・電話・メール・ウェブ・セミナーなどの販売の手法は代理店が選べるとしつつ、虚偽や誇大な表現を禁止し、提供者が是正を求められるとしました。報告をしない、又は虚偽の報告をした場合は、是正や再提出を求め、応じなければ重大な背信行為として解除できる、という形です。同じ提供者の紹介業務の契約では、紹介の業務に見込み顧客への基本的な説明・初期の連絡の支援・成約に向けた顧客への対応まで含めていました。紹介者がお客様に説明する場面が広いほど、説明の内容を提供者の資料にそろえる必要が高まります。
アカウントの帰属:管理者は誰か、代理店との契約が終わったらどうなるか
再販型では、お客様のテナント(お客様ごとの利用環境)の管理者のアカウントを、代理店が持つのか、お客様が持つのかを決めます。代理店が管理者を持つと、代理店がお客様のデータに触れることができ、お客様の個人データについて代理店が委託先として扱う立場になります。お客様が管理者を持つなら、代理店はサポートのためにどこまでアクセスできるのかを決めておきます。
代理店との契約が終わったときのアカウントの扱いも、あらかじめ決めておく事項です。取引先を招待して使わせるSaaSの例が参考になります。広告の制作を管理するクラウドでは、広告主が制作会社を招待して使わせる構造で、広告主が当社との契約を終了した場合は、その広告主に関連する制作会社の利用の権限も自動的に終了する、と定めました。親の契約が終われば、それにぶら下がるアカウントも終わる、という連動です。再販型でも、代理店との契約が終わったときに、お客様のアカウントを①終了させるのか、②提供者がお客様と直接の契約に切り替えるのか、③別の代理店に引き継ぐのかを決め、そのときのデータの扱い(エクスポートの機会、削除の期限)をデータの返還・削除の考え方に沿って書いておきます。
代理店との契約が終わったときの選択肢
どれを選ぶかは、お客様との契約(代理店との契約)にも書いておかないと、お客様から見て突然サービスが止まることになります。
提供の主体が変わる場面は、代理店の離脱だけではありません。事業者専用の管理クラウドの規約では、提供者の事業譲渡・会社分割・合併のときに、契約上の地位・登録情報・ユーザーデータを承継先に移すことができ、契約者は事前に同意したものとする、と定めています。試行版の契約では、提供者の合併・会社分割・事業譲渡に顧客の承諾が要るとスタートアップの資本政策を縛るため、組織再編による承継を双方に例外として認め、事前に通知する(やむを得ない場合は事後)、としました。
サポートの窓口と、障害・事故の連絡の経路
再販型や取次型でも代理店が導入を支援する場合、お客様からの問合せの一次の窓口を誰にするかを決めます。代理店が窓口なら、代理店から提供者への取次ぎの方法、提供者が直接お客様に連絡してよい場面(障害の告知、セキュリティの事故、サービスの終了)を決めておきます。
- 個別契約と規約の関係。音声応答のクラウドのサービス提供契約では、利用の条件・技術の仕様・サポート・データの保存・バックアップ・障害の対応・禁止事項は利用規約に従い、顧客は事前に確認・同意したうえで利用する、としています。代理店経由でも、どの書類のサポートの条件が適用されるのかを明確にしておきます。
- 事故の報告の連鎖。お客様の個人データの漏えいが起きたとき、提供者から代理店へ、代理店からお客様へと通知が伝わる構造では、各段の通知の期限を足し合わせても、お客様の報告の期限に間に合う必要があります(委託先と個人情報のページ)。紹介業務の契約で、紹介者に、紹介顧客の個人情報を目的の範囲内でだけ使うこと、再委託に事前の承諾をとること、漏えいのときは直ちに報告すること、終了時に返還・廃棄して書面で証明することを義務付けた例もあります。
- 報告の項目。販売代理店契約では、月末締め・翌月10日までに、顧客名・所在地・プラン・契約金額・成約の有無・苦情などを報告させる例があります。苦情を報告の項目に入れておくと、お客様の不満が提供者に届かないまま解約に至ることを防げます。
他社のシステムを自社で売る、開発会社と組む
SaaSの提供者が、他社が開発したシステムを自社の名前で販売する場合や、開発と運用を開発会社に任せて自社は営業を担う場合も、エンドユーザーとの関係で決めることがあります。
提供の主体と開発の主体が分かれる場合(事務所の書類から)
他社のシステムを自社名義で販売
システムの販売代行の契約
- 販売する側が自己の名義と責任でエンドユーザーに提供し、販売契約はすべて販売する側とエンドユーザーの間
- 開発者の知的財産は開発者に帰属
- 販売する側がクラウドのサーバーで提供すること(事実上の使用権の付与)を禁止
ライセンシーのクラウド化の禁止
ソフトウェアの使用許諾
- 「クラウドサービス化その他事実上の使用権限を付与する行為」を禁止行為に
- ライセンシーが第三者にSaaSとして提供することを封じる
開発会社との協業
生成AIを統合した法人向けクラウドの協業契約
- 営業・顧客対応・顧客情報の管理は事業主体、開発・運用・保守は開発会社
- 分配の前に、決済手数料・ホスティング費・生成AIのAPIの使用料などを差し引く
- 終了後6か月はエンドユーザー向けの提供と対応を続け、ソースコード・設定ファイル・ドキュメントを開示して継続に協力する
協業契約の終了後の継続の条項は、開発をパートナーに頼るSaaSのエンドユーザーを守るための定めです。開発会社が離れた瞬間にサービスが止まれば、事業主体はエンドユーザーとの契約を守れません。継続の期間、ソースコードなどの開示の範囲、その間の費用の分担を、協業契約の段階で決めておきます。生成AIのAPIの使用料のように、利用量に比例して変動する原価を、分配の前に差し引くのか後から負担するのかも、SaaSの協業で特に争いになりやすい点です。
取引先を招待する場の運営者として、何を負わないか
法人どうしのやり取りの場を提供するSaaSでは、提供者が当事者間の取引に入り込まないことを規約に書いておきます。広告の制作を管理するクラウドの規約では、次のように定めました。
- 当社は広告の制作を受託せず、ツールを提供するだけで、制作の完成の責任を負わない。
- 広告主と制作会社の間の制作費・契約条件・支払いは、本サービスの外で当事者が直接取り決めて決済する。当事者間の費用・品質・納期のトラブルに当社は関与しない。
- 制作物が景品表示法や医薬品等の表示の規制に適合しているかは、広告主と制作会社が確認する。当社は事前の審査をしない。
- 制作物の著作権は当事者の間で決め、当社は取得しない。
- 招待された制作会社が、広告主の許可なく制作物を自社の実績として掲載することを禁止する。
三者の構造になるSaaSでは、提供者の立場をさらにはっきり書きます。採用支援のクラウドは、当初は法人の利用者だけを対象にしていましたが、求職者も規約の当事者に加える構造に改め、当社は契約者と候補者のやり取りの場を提供する「プラットフォーム提供者としての地位にとどまり」、契約関係・採用の判断・評価・意思表示の主体ではないこと、契約者と候補者の間の行為には故意・重過失がある場合を除き責任を負わないことを定めました。送客の業務提携のように、提携先の画面に自社のサービスへの導線を置く場合は、表示の素材やリンクを変えるときに確認用の環境やスクリーンショットで事前に共有して相手の承認を得ること、法令違反のおそれ・システムの障害やセキュリティの事故・ブランドの毀損のおそれがあれば事前の協議なしに一時停止でき事後に通知すること、を決めています。
求人情報の掲載のサービスで、掲載企業の代わりに運営者が入力を代行する場合も、内容の正確性・適法性の最終の確認は掲載企業の責任で、代行の後に速やかに確認し、申出がなければ同意したものとみなす、という条を修正版で加えています。導入の支援として提供者が設定や入力を代行するSaaSでも、同じ責任の分け方が使えます。
ヒヤリングの問いと理由販売チャネルを入れる前に
お客様は、提供者と代理店のどちらと契約しますか。
提供者と契約するなら取次型、代理店と契約するなら再販型として、規約の流し込みとデータの連鎖を設計します。
お客様のテナントの管理者は、誰が持ちますか。
代理店が持つなら代理店の委託先としての立場を、お客様が持つなら代理店のアクセスの範囲を決めます。
代理店との契約が終わったら、お客様のアカウントはどうなりますか。
終了・直接契約への切替え・別の代理店への引継ぎのどれにするかと、データの扱いを決めます。
お客様からの問合せと障害の連絡は、誰が受けますか。
一次の窓口と、提供者が直接連絡してよい場面を決めます。
開発や運用を他社に頼っていますか。
頼っているなら、離脱したときの継続の期間とソースコードなどの開示を、協業契約で決めます。
起きがちなこと
販売代理店・協業で起きがちなこと
- 取次型から再販型に変えたのに、お客様に提供者の規約を守らせる仕組みを入れていない。
- 代理店がお客様のテナントの管理者になっているのに、代理店がお客様のデータに触れることの扱いを決めていない。
- 代理店との契約が終わったときに、お客様のアカウントとデータがどうなるか決まっていない。
- お客様からの問合せや事故の連絡が代理店で止まり、提供者に届かない。
- 開発会社が離れたときのサービスの継続とソースコードの扱いを決めておらず、エンドユーザーとの契約を守れなくなる。
- 招待した取引先どうしのトラブルや制作物の表現について、場の運営者が責任を負うように読める。
よくあるご質問
SaaSを販売代理店に再販してもらう場合、利用規約はお客様に適用されますか?
再販型でお客様が代理店と契約する場合、提供者の規約はお客様を直接拘束しません。提供者と代理店の契約で、禁止事項・データの扱い・利用の停止・提供者の免責と責任の限度などを、代理店とお客様の契約に同等以上の条件で入れる義務を代理店に負わせておきます。
再販型の場合、お客様のアカウントの管理者は誰にすべきですか?
代理店とお客様のどちらにもできますが、どちらにするかを決めておくことが大切です。代理店が管理者になると、代理店がお客様のデータに触れる立場になるので、委託先としての扱いを決めます。お客様が管理者になるなら、代理店がサポートのためにアクセスできる範囲を決めます。
代理店との契約が終わったら、その代理店経由のお客様はどうなりますか?
契約で決めておかないと、お客様から見て突然サービスが止まるおそれがあります。お客様のアカウントを終了させる、提供者との直接の契約に切り替える、別の代理店に引き継ぐのどれにするかと、エクスポートの機会や削除の期限を、代理店との契約とお客様との契約の両方に書いておきます。
紹介だけを行う代理店には、何を禁止しておけばよいですか?
提供者の名前での契約の締結、見積りの提示、値引きや返金の約束、「正規代理店」などと名乗ることを禁止し、説明は提供者が承認した範囲に限る、と定めるのが一般的です。お客様は提供者の規約に同意して提供者と契約するので、規約の流し込みは不要です。
SaaSの開発を外部の会社に任せている場合、契約で何を決めておくべきですか?
役割の分担、収益の分け方(外部のAPIの使用料などを分配の前に差し引くか)、知的財産の帰属に加えて、協業が終わった後もエンドユーザー向けの提供を一定期間続けること、そのためのソースコード・設定ファイル・ドキュメントの開示と費用の分担を決めておきます。
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