期間・自動更新・中途解約

SaaSの契約では、顧客の解約の手続は書かれていても、提供者の側から更新を止める手段や、提供者の都合で終わるときの前払金の扱いが欠けていることがあります。

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1か月更新に「次回更新日の30日前まで」の予告を組み合わせると、提供者は事実上2回先の更新日までやめられません。

このページの要点

  • 提供者の更新停止は「通知の到達から30日を経過した日以後最初の更新日」で止まる形にする。
  • 民法651条1項の任意解除を適用しない旨を書き、日割返金なしの条項との衝突を避ける。
  • 提供者の中途解約・サービス終了・料金改定への異議解約では、終了日以後の前払金を日割で返す。
  • 1年契約・月払いは違約金方式か残額支払方式かを決め、最低利用期間を更新後にも及ぼすかを明記する。

結論:自動更新の条項は、提供者の側からも止められる形にする

SaaSの契約期間は、1か月ごとの自動更新、1年契約、最低利用期間付きの月単位の更新など、さまざまです。顧客の側の解約の手続はたいてい書かれていますが、事務所が確認した書類では、提供者の側から更新を止める手段がない、提供者の都合で終わるときに前払金が戻らない、という片側の手当てが欠けている例が見られました。

このページでは、次の論点を事務所の書類に沿って説明します。

  1. 提供者の更新停止権と、1か月更新で「30日前まで」と書いたときの落とし穴。
  2. 民法651条の任意解除と、日割で返金しない旨の関係。
  3. 提供者の都合で終了するときの前払金の返還。
  4. 1年契約・月払いの途中解約(違約金方式か、残額支払方式か)と最低利用期間。

1か月更新で「30日前まで」と書くと、提供者は2回先までやめられない

社内資料を読み込むAIサービスの試行版の契約は、1か月ごとに自動更新し、顧客は更新日の7日前までに通知すれば止められる、という作りでした。ところが提供者の側には更新を止める手段がなく、顧客が止めない限り毎月の更新が続きます。試行の打切り、正式版への移行、対象企業の絞り込みのいずれにも受け皿がない状態です。

提供者にも更新停止権を置くとして、「次回の更新日の30日前までに通知する」と書くと、別の問題が生じます。1か月の期間に対して30日前という期限は、現在の期間の初日より前に来ることがあり、28日しかない月は必ずそうなります。つまり、通知した時点で次の更新日にはもう間に合わず、提供者は事実上2回先の更新日までやめられません。

「次回更新日の30日前まで」と書いた場合(1か月更新)

期間の初日現在の1か月の期間が始まる。
通知この時点で、次の更新日の30日前はすでに過ぎていることがある。
次の更新日間に合わないので、契約はもう1か月更新される。
2回先の更新日ここでようやく停止できる。

1か月の期間に30日の予告を組み合わせると、期限が期間の外にはみ出します。

そこで修正文案では、更新を止める日の決め方を逆にし、「通知が到達した日から30日を経過した日以後、最初に到来する更新日」に停止すると定めました。顧客の側は従来どおり7日前の通知で止められます。更新の停止について違約金は生じず、相手方に損害賠償の責任も負わないことも明記しました。

条文例更新の停止(試行版の契約の修正文案を一般化)

  1. 本契約は、利用月の満了の日までに甲又は乙が次項又は第3項の通知をしない限り、同一の条件でさらに1か月間更新され、以後も同様とします。
  2. 甲は、更新日の7日前までに乙に通知することにより、本契約を更新しないことができます。
  3. 乙は、甲に通知することにより、その通知が甲に到達した日から30日を経過した日以後最初に到来する更新日をもって、本契約を更新しないことができます。
  4. 前二項による更新の停止について、甲及び乙は、違約金その他の金銭の支払義務及び相手方に対する損害賠償の責任を負いません。

正式版への移行も、予定日の30日前までに通知し、条件は別途合意、合意できなければ通知の到達から30日経過後の最初の更新日で終了、と同じ30日にそろえました。提供者の都合で終わる場合の予告が提供者自身の予告より短いと、顧客の法務担当者から一貫性を問われるためです。

民法651条の任意解除と、「日割の返金なし」の衝突

委任は、各当事者がいつでも解除することができます(民法651条1項)。この規定は、法律行為でない事務の委託(準委任)にも準用されます(同法656条)。SaaSの利用契約に事務の処理の委託の要素があるとみると、顧客は月の途中でもいつでも解除できると主張する余地があり、そうなると「月の途中で終わっても日割の返金はしない」という条項とぶつかります。試行版の契約の修正文案では、民法651条1項を適用しない旨を明記し、解約は更新を止める方法による、と整理しました。

また、委任が履行の途中で終了したときは、受任者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます(民法648条3項2号)。この考え方からすると、前払いの料金を返さない旨の定めがない契約では、途中で終わった後の期間の分の返還を求められ得ます。スクール向けの顧客管理クラウドのひな形には、前払金を返さない旨の規定がなかったため、報告書でこの点を指摘しました。

提供者の都合で終わるときは、前払金を日割で返す

同じスクール向けのクラウドでは、提供者が14日前の通知でいつでも中途解約できる一方、終了時のデータの扱いが書かれておらず、「スクールの顧客台帳が2週間で消える」構造になっていました。依頼者の第2版では、返金しない原則の例外を「提供者の責めに帰すべき事由」に限りつつ、提供者に30日前の中途解約権、3か月前のサービス終了権、契約の変更権、料金の改定権、外部委託先の一覧の変更権を与えていました。どれも提供者の都合で契約が終わる場面なのに、前払金は戻らない形です。

事務所の改訂例:提供者の都合による終了と前払金

返金しない原則の例外

改訂前提供者の責めに帰すべき事由がある場合だけ。(依頼者の第2版)
改訂後提供者が中途解約した場合、サービスを終了した場合のほか、契約の変更・料金の改定・外部委託先の変更に異議を述べて顧客が解約した場合を列挙し、終了日以後の期間に対応する既払金を日割で返すとしました。

理由返還の定めは、顧客の安心のためというより、返金しない旨の条項の残りの部分(顧客の都合による解約)を守るために置きます。提供者の都合でも返さない条項は、全体として不当と評価される入口になり得ます。

事業者向けの予約管理クラウドの規約は、期間の末日に解約の効力が生じ、期間の途中で解約しても返金しない、という作りでした。報告書では、解約した後に提供されない期間が生じない構造なので、返金しないことが未提供の役務の対価を取る結果にならず、原則として有効と評価しました。ただし、当社が90日前の通知でサービスを終了する場合、利用を停止した場合、主要な機能を廃止した場合には、年額前払いの残りの期間の分が役務の提供なしに当社に残ります。この場面の手当てがないことを、補うべき点として挙げています。

その規約には「法令に定める場合を除き返金しない」という留保がありましたが、ここでいう「法令」として、債務者の危険負担(民法536条1項)や解除の規定による処理が及ぶかは明らかではありません。当社が約定の終了権を行使して終了させる場合、それは履行不能にも債務不履行にも当たらないと整理する余地があるからです。留保の文言に頼らず、当社都合の終了の場面を列挙して返金の有無を書いておく方が確実です。報告書では、役務を提供しないまま前払分を一切返さない結果になる場面は、過大な違約罰と同じように、不当な条項と評価される材料になり得る、という点も挙げています。

提供者側の終了と返金の書き方(事務所の書類から)

サービス提供者側の終了前払金
スクール向けの顧客管理クラウド(第2版・修正加筆版)サービス終了は3か月前に通知終了日以後の既払金を日割で返還
事業者向けの予約管理クラウド90日前に通知し、データを取り出せる期間を設ける当社都合の終了時の扱いが空白(報告書で指摘)
生成AIを統合した法人向けクラウド中断・終了の損害は故意・重過失を除き免責事前に受領した料金は未提供分を日割で返金
採用支援のクラウド—既払い料金は返金しない。ただし当社の故意・重過失で継続的に提供できなくなった場合は除く
音声応答のクラウドサービスの終了未提供分の返金その他合理的な対応。提供者側の停止・解除では理由を問わず返金しない

1年契約・月払いの途中解約:違約金方式か、残額支払方式か

1年の契約期間で料金を月ごとに払う形は、法人向けSaaSでよく使われます。この形で途中解約をどう扱うかは、施設向けの業務支援システムの規約で、依頼者の要望を反映して版を重ねるたびに大きく動いた論点です。

1年契約・月払いの解約の型(施設向けシステムの版の変遷から)

違約金方式

途中解約はできる

  • 最低利用期間内に自己都合で解約すれば、残りの月数×月額の違約金
  • 違約金は損害賠償額の予定とし、追加の賠償は請求しない(故意・重過失は別)
  • 最終版はこの構造

残額支払方式

途中解約はできない

  • 年間利用料金を12か月に分けて毎月払う
  • 利用をやめても残りの期間の料金全額を元の支払方法で払い続ける
  • 年額一括なら返金なし
  • 一度はこの構造に変えたが、最終版で違約金方式に戻した

違約金は損害賠償額の予定と推定されます(民法420条3項)。顧客の側から見ると、違約金方式は解約の自由があることがはっきりしており、残額支払方式は解約そのものができない点で受け入れにくい構造です。

同じ規約では、次の点も版ごとに動きました。

  • 最低利用期間を更新後にも及ぼすか。一度は更新後の各期間にも1年の最低利用期間を適用する形に強めましたが、後の版で、最初の利用期間だけに適用する形に戻しました。
  • 開始月と解約月の日割。月割りで計算する場合、1か月未満は日数で日割りにするが、利用開始の月と自己都合で解約した月は全額とする項が入りました。
  • 料金改定に同意しないで解約する場合。最低利用期間の違約金を適用しない項が、版によって入ったり外れたりしました。
  • 当社の責めによる途中終了。月割りで精算する定めが版ごとに書き換えられました。

ほかの書類では、広告の制作を管理するクラウドが年間契約に最低利用期間を置き、期間内の解約は残りの期間の料金全額を違約金等として支払うとし、月額契約は解約の申請が届いた月の末日に効力が生じるとしました。生成AIを統合した法人向けクラウドは、最低6か月の継続利用の後は1か月単位の自動更新とし、更新しない場合は更新期日の30日前までに通知する形です。申込書の修正版で「割引は初年度のみ」「満了の30日前までに通知がなければ1年自動更新」を追記した例もあります。

1年の自動更新の型でも、中途解約の扱いはさまざまです。採用支援のクラウドは、1年ごとに30日前までの通知で更新を止められ、中途解約はできるが既払い分は返金しない形です。法人向けの業務支援クラウドの約款は、中途解約をしても、当社が別途認める場合を除き満了までの料金が発生する形で、レビューの段階で出た「1年を超える契約なら60日前の通知に」という案は採っていません。ソフトウェアの使用許諾では、1年・30日前の通知で自動更新とし、条件を変えるときは満了の60日前に通知して協議する、と更新の前の交渉の期間を別に設けています。

契約が終わった後に残す条項

期間の設計とあわせて、契約が終わった後も効力を残す条項(存続条項)を決めておきます。試行版の契約の修正文案では、知的財産の扱い、フィードバック、秘密保持(定めた期間に限る)、データの削除、禁止事項、損害賠償、管轄などを残しました。リバースエンジニアリング(ソフトウェアを解析して仕組みを探ること)や競合サービスの開発への利用の禁止は、むしろ契約が終わった後にこそ意味を持ちます。責任の上限の条項も、終了後に発覚した情報漏えいの場面で最も重要になります。一方で、不可抗力や譲渡の禁止は、終了後に残す実益が乏しいので外しました。スクール向けのクラウドの修正・加筆版では、存続条項の中で使われている「登録データ」「効力発生日」といった定義語が終了後に意味を失わないよう、定義の条そのものも存続の対象に加えています。

ヒヤリングの問いと理由期間と解約の条を作る前に

  1. 提供者の側から更新を止めたい場面はありますか。

    試行の終了、正式版への移行、対象の絞り込みがあり得るなら、提供者の更新停止権を、期間の長さに合った予告で置きます。

  2. 料金は前払いですか。年額一括の顧客はいますか。

    前払いなら、提供者の都合で終わる場面ごとに、終了日以後の分を返すかどうかを決めます。

  3. 1年契約で月払いの顧客の途中解約を認めますか。

    認めるなら違約金の算定(残りの月数×月額など)を、認めないなら残額の支払方法を決めます。

  4. 最低利用期間は、更新後にも及びますか。

    最初の期間だけか、毎期間かで顧客の拘束の強さが大きく変わります。

  5. 解約の締切は、更新日の何日前の何時までですか。

    請求が更新日の何時に走るのか、前日のいつまでに解約すれば間に合うのかを決めます。

中途解約の予告と、解除の条項の組み方

提供者の側の中途解約権を置く場合、予告の長さは顧客がデータを移し、代わりのサービスを探す時間を基準に考えます。スクール向けのクラウドのひな形は提供者が14日前の通知でいつでも中途解約できる形でしたが、依頼者の第2版では、顧客は14日前、提供者は30日前と、提供者の予告を長くしました。サービス全体の終了は3か月前の通知です。SaaSの開発と運用を開発会社が担う協業契約では、契約を無期限とし、6か月前の書面の通知でいつでも終了できるとしたうえで、終了後もエンドユーザー向けの提供を一定期間続ける定めを置いています(販売代理店・協業のページ)。反対に、確認した契約書の中には、双方が予告の期間なしに通知だけで解除できる条項もありました。顧客の業務が止まる時間の手当てがない形です。

解除の条項にも、SaaS特有の注意点があります。試行版の契約のレビューでは、次の3点を直しました。

  • 主語の整理。原本は「相手方について次の事由が生じた場合、相手方は解除できる」と読め、文字どおりには信用不安が生じた当事者自身が解除できる形でした。解除できるのは事由が生じていない方の当事者だと分かるように改めました。
  • 催告の期間の特定。「相当期間を定めて催告し」では、期間が相当だったかを争われて解除の効力が覆るおそれがあるため、「14日以上の期間」と特定しました。
  • 差押え等の限定。双方に適用される無催告解除の事由のうち、差押え・仮処分などは「本契約の履行に重大な支障を及ぼすおそれがあるとき」に限りました。提供者が第三者から仮処分の申立てを受けただけで、顧客から即時に解除される建付けを避けるためです。

解約の意思表示をどの方法で受け付けるかも決めておきます。個人向けの管理クラウドの規約では、アカウント画面の解約機能、登録したアドレスからの電子メール、その他の方法の3つを定め、電子メールでの解約は提供者のメールサーバーに到達しアカウントが特定できた時に受け付けたものとし、受付の確認の返信は効力の要件ではない、としました。アプリの削除やログインしないこと、カードの停止は解約にならないことも明記しています。法人向けでも、退職した担当者の個人アドレスからの解約の連絡をどう扱うかといった形で、同じ問題が起きます。

更新日の何時までに解約すれば間に合うか

予約管理クラウドの規約では、更新日に次の期間の料金を請求するとしながら、更新日の何時に請求されるのか、前日のいつまでに解約すれば間に合うのか、「期間の末日」と「更新日」がどういう関係にあるのかが書かれていませんでした。決済に失敗したときに再試行するのか、猶予があるのか、「有料プランの終了」になるのか「停止」になるのかも不明でした。更新の前に事前に知らせる仕組みもありませんでした。事業者間で更新前の通知を一律に求める法令は確認できませんが、個人が混じる場合には、表示と解約のしやすさが評価の中心になります(契約の組み立てのページ)。

無料期間や試行期間から有償に移る場面の期間の起算は、さらに論点が増えます。β期間中に有料の申込みをした場合の最初の期間の起点はPoC・トライアルのページで扱います。

起きがちなこと

期間と解約で起きがちなこと

  • 顧客の解約の手続だけがあり、提供者の側から更新を止める手段がない。
  • 1か月更新に「30日前まで」の予告を組み合わせ、通知しても次の更新に間に合わない。
  • 民法651条の任意解除を排除しておらず、月の途中の解除と日割の返金なしの条項がぶつかる。
  • 提供者が中途解約・サービス終了・料金改定をしても、前払金は返さないと書いている。
  • 1年契約・月払いの途中解約が、違約金方式なのか残額支払方式なのか、版ごとに揺れたまま締結される。
  • 更新日の何時に請求し、前日のいつまでに解約すれば間に合うのかが書かれていない。

契約が終わるときに一緒に決めておくのが、顧客データの返還と削除です。データの返還・削除のページもあわせてご覧ください。

よくあるご質問

1か月ごとに自動更新するSaaSで、提供者から更新を止める条項はどう書けばよいですか?

「次回の更新日の30日前まで」と書くと、期限が現在の期間の初日より前に来ることがあり、提供者は事実上2回先の更新日までやめられません。「通知が到達した日から30日を経過した日以後最初に到来する更新日に終了する」と、止める日の決め方を逆にするのが確実です。

提供者の都合でサービスを終了するとき、前払いの料金は返す必要がありますか?

返す定めを置くことをおすすめします。提供者の都合で終わる場面でも返さないとする条項は、全体として不当と評価される入口になり得て、返金しない旨の条項の残りの部分(顧客の都合による解約)まで危うくするおそれがあります。終了日以後の期間に対応する分を日割で返すのが基本です。

1年契約で月払いのSaaSの途中解約は、どう定めるのがよいですか?

途中解約を認めて残りの月数×月額の違約金とする方式と、途中解約を認めず残りの料金を払い続ける方式があります。違約金は損害賠償額の予定と推定され、顧客にとって解約の自由がはっきりしている点で受け入れられやすい方式です。

最低利用期間を自動更新の後にも適用できますか?

契約で定めれば可能ですが、顧客の拘束が強くなります。事務所の書類でも、更新後にも適用する形にしたものを、最初の利用期間だけに適用する形に戻した例があります。顧客に説明しやすい形かどうかで判断します。

期間の途中で解約しても返金しない、という条項は事業者間で有効ですか?

解約の効力が期間の末日に生じ、解約後に提供されない期間が生じない構造なら、原則として有効と考えられます。ただし、提供者の都合でサービスを終了したり主要な機能を廃止したりして、前払いの残りの期間の分が提供者に残る場面は別に手当てが必要です。

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